【本当は恐ろしい感染症】狂犬病と予防ワクチン

今なお世界でその脅威を発揮している狂犬病。この恐ろしい感染症を、皆様はどれほどご存知でしょうか。名前だけは聞いたことある程度の認識の人も少なくないでしょう。それもそのはずで、現在日本では国内で感染及び発症した事例はここ数年報告されておらず、輸入感染もごく僅かです。

しかし、その平穏は自然となっていったものではなく、予防ワクチンの義務化を始めとした数々の対策の元で成り立っています。言い換えれば、その対策を怠ってしまった場合、日本がまたいつその牙にかかるか分かりません。そこで、今一度狂犬病の恐ろしさとワクチンの重要性について学んでいきませんか?

今回は狂犬病及び予防ワクチンについて解説していきます。

目次

狂犬病とは

皆様は狂犬病についてどれだけ詳しく知っていますか?現在の日本では感染することがほぼ無いため、あまりその恐ろしさが認知されていません。まずはその脅威について見ていきましょう。

ここでは狂犬病の概要や過去の日本における被害、世界の現状について解説します。

致死率ほぼ100%の感染症

狂犬病は狂犬病ウイルスによって感染する感染病のことで、一度発症するとほぼ確実に死に至ると言われています。過去には数人のみ生き残った事例も報告されていますが、そのいずれも重度の後遺症に悩まされているとのこと。日本で暮らしていると信じられない話ですが、世界では毎年5万人もの人が狂犬病によって亡くなっています。

狂犬病という名前からすると、犬からのみ感染するのではと思ってしまいますよね。しかし実際はネコやコウモリなど全ての哺乳類に感染する上、媒介するだけなら昆虫も該当します。唯一、人から人への感染事例は確認されていませんが、感染者の臓器を移植することで感染してしまうなどの特殊な事例は記録されているようです。

過去にはその特性から感染病としてはかなり警戒されていましたが、現在は有効なワクチンが開発されたことや、人から人への感染がほぼ無いことから、きちんとしたワクチン接種等の対策をしておけば大丈夫という認識となっています。日本でも、【二度と感染事例を出さない】という方針のもと、犬に対する狂犬病予防ワクチン接種の義務化や、家畜伝染病予防法などの法律が制定されていますね。

日本における狂犬病の被害

現在の日本では、狂犬病という名前を聞いたことのある人はいても、その恐ろしさまで把握している人は少ないのではないでしょうか。それもそのはず、日本における狂犬病の大きな被害は1923年に起こった関東大震災が最後なのです。しかし同時にこの地震における被害は、過去の被害と比較しても引けを取らないほど悲惨なものでした。

当時はまだペットの保護や非常時の対応などの認識が甘く、ペット同行不可の避難所も少なくありません。またマイクロチップなどの飼い主を特定できる手段も無かったため、名札を落としたペットは、そのほとんどが飼い主の元にたどり着かなかったのです。人的被害や物的被害のみならず、動物への被害も尋常では無かったのだと容易に想像できます。

結果として、翌年である1924年に報告された感染者数は726件にものぼりました。また、何の因果か1922年は家畜伝染病予防法が制定されており、当時感染していたと思われる家畜はすべて殺処分されています。

政府や市民はもう二度とこんな悲劇を起こすまいと、狂犬病ワクチンの接種や野良犬の取り締まりを厳格化し、現在の感染することのない日本へとなっていったのです。

海外の狂犬病

先述したように、こと日本においては現状狂犬病の脅威はほぼ無いと言っても良いでしょう。更に言えば、日本以外でも島国や岩山等の物理的に感染病が流行りにくい国は狂犬病の被害に遭いにくいと言われています。しかしその一方で、それ以外の国では多くの死者が毎年出ているのも事実です。

そもそも、実は日本ほど感染病が流行りにくい国もそうありません。島国かつ衛生状態も極めて良好、医療技術も優れているのが日本という国です。そんな日本ですら、長年狂犬病に悩まされ、その撲滅に途方のない時間とお金と市民の協力、そして感染した動物の徹底的な処分が不可欠でした。

しかし、当然全ての国が日本と同じな訳ではありません。地形の関係から感染病が流行りやすい国や、ワクチンが十分に行き届いていない国もまだまだ少なくないのが現状です。致死率や哺乳類全てが感染経路となり得ること、ワクチンの有無などを考慮すると、未だ世界では恐ろしい感染症であることには変わりないでしょう。

狂犬病の症状

狂犬病の恐ろしさは前項の通りですが、では具体的にどのような症状が見られるのでしょうか。一説には有名なゾンビや吸血鬼といった怪物の【凶暴】【咬まれると仲間になる】という要素の元ネタは狂犬病ではないかと言われています。

ここではそんな狂犬病の症状を、人間が感染した場合と犬が感染した場合の2つに分けて解説します。

人間が狂犬病に感染した場合

狂犬病はあらゆる哺乳類に感染する可能性があり、人間も例外ではありません。流行国の野生動物に咬まれてしまったのなら、ワクチン接種をしていないと感染してしまうでしょう。感染した場合は、1~3ヵ月ほどの潜伏期間の後発症します。また、発症までは咬まれた場所が少し痺れることがあります。

発症した直後は頭痛や発熱といった風邪によく似た症状が現れ、進行するとやがて意識障害や幻覚及び幻聴、興奮状態といった症状が出てきます。またこの段階まで行くと、過度な神経過敏によって、水を飲むといった軽い刺激でも激しいけいれんを起こしてしまうため、別名恐水症とも言われています。

その後は2~3日程度で全身がけいれんし、不整脈によって死に至ります。助かる術は発症前の暴露後ワクチンしかなく、発症してしまうと医者ですら患者の精神面のサポートしかできません。

犬が狂犬病に感染した場合

犬が狂犬病に感染した場合は、1ヵ月ほどの潜伏期間の後に発症し、症状は狂操時と麻痺時に分かれ、それぞれの異なった症状が現れる感染症です。

狂躁時は神経過敏や凶暴性の発露が見られ、周囲の人や動物、果てには物にまで見境なく嚙みつきます。嚙みつく力を制御できないため、歯がボロボロになったり、口や舌をケガして血を吐こうとも構わず噛みつき回ります。鳴き声も狂ったような声に変わるといわれており、正に狂犬と表現するしかないほどです。

麻痺時は狂躁時と打って変わって凶暴性は見られませんが、頭部を麻痺しているため食事が取れない状態になります。麻痺時の症状はこれくらいしか目立ったものがないため、ぱっと見では狂犬病と判断できないとされています。

狂犬病予防ワクチンの重要性

狂犬病はとても恐ろしい感染症ですが、日本では関東大震災以降、脅威度は激減しました。それには予防ワクチンの効果によるところが大きく、今後もそれを守っていかねばなりません。

ここでは狂犬病予防ワクチンの概要と有用性について解説します。

ワクチンは本当に効果があるのか

これまで解説してきたように、狂犬病は一度発症してしまうと助かる道はなく、万が一助かったとしても重い後遺症をずっと引きずって生きていくことになります。しかし、現在はワクチンを接種していれば発症のリスクを激減させ、また感染したとしても発症する前に暴露後ワクチンを接種していれば発症を防げます。

事実、今の日本を狂犬病の脅威から守っているのは、予防ワクチンの徹底と野良犬の取り締まりがあるからこそであり、その有用性はもはや疑いようのないことでしょう。しかし、日本国外では未だこの感染症は恐ろしいものであり、多くの犠牲者を出しています。そして、もし日本がワクチン接種を止めてしまったら、いつまた日本にウイルスが入ってくるかも分からないのです。

今平和に生きている私たちが、これからも平和に生きていくためにワクチン接種を忘れないようにしていかなければなりません。予防ワクチンにはそれだけの有用性があるのですから。

ワクチンの副作用

ワクチンの有用性は十分に証明されていますが、そうなると気になるのはやはり副作用の方でしょう。飼い主様の中には「副作用が怖いからなるべくなら打たせたくない」という人もいるのではないでしょうか。

結論から申し上げますと、ごくごく僅かではありますが、副作用としてけいれん、発熱、下痢、嘔吐等の症状が確認されています。しかし、そのほとんどが軽症であり、時間経過によって自然と治ることが多いです。特に、皆様が驚かれるのはけいれんを起こした時ですが、こちらも数分程度で治まることがほとんど。

もし長時間これらの症状が見られる場合は、スマホ等でその様子を動画撮影し、獣医師にその旨を伝えて判断を仰いでください。

ワクチンの接種期間

狂犬病予防ワクチンも含め、予防ワクチンというものは定期的に接種していかなければなりません。特に狂犬病予防ワクチンは法律によって義務化されているため、決められた期間に必ず接種を受けさせることになります。

ではその期間ですが、基本的には毎年4月1日から6月30日までに接種させることになっています。その際は事前に通知が来るかと思いますので、忘れずに受け取るようにしましょう。【基本的に】と言ったのには理由があり、それが新型コロナウイルスの影響です。

今年はコロナの影響で期間内に接種できなかった場合は特例として、12月31日までに予防接種させることで、通常の期間内に接種したと見なす処置が政府により施行されています。早めに接種させなくてはいけないことには変わりありませんので、身の回りや自身の状態に十分注意したうえで、判断してください。

狂犬病の流行国に行く時

旅行や出張等の理由で海外に行く時は、必ずその国が狂犬病の流行国かどうかを確認し、事前に国内で予防ワクチンを接種しましょう。接種は複数回にわたって行われ、WHOでは2回、厚生労働省では3回の接種が推奨されています。

また現地で野生動物に咬まれた際は、早急に近くの医療機関で診察を受け、判断次第では暴露後ワクチンを接種してください。このワクチンも複数回に分けて接種していきます。ただし、もし現地で完了できなかった場合でも、国内で続行できます。

狂犬病の恐ろしさと私たちのすべきこと

私たちの国はこれまで黒死病などの危険な感染症の被害にあった事はなく、今は狂犬病など致死率の高い感染症とはほぼ無縁の生活を送っているといっても過言ではありません。しかし、これらはいずれも海外では未だ恐れられており、旅行等の事情で海外に行ったときに感染しないとも限りません。

事前のワクチン接種、咬まれた際の暴露後ワクチンを忘れずに活用しましょう。また日本が特別安全というわけでもありません。私たちが狂犬病の被害に遭わないのは、飼い主様たちが予防ワクチンをちゃんと愛犬に打たせてあげているからです。今後も義務だからではなく、その重要性を十分に把握しながら、日本を守っていきましょう。

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