マイクロチップの義務化とそのメリット

令和4年6月より、犬や猫にマイクロチップの装着が義務化されました。元から飼っていた飼い主にはあくまで努力義務ではありますが、皆様はこの件についてどう思いますか?「これで迷子になる子もいなくなる」と喜ぶ人も多い一方で、「ペットの身体に異物を入れたくない」という批判的な人も少なくありません。

海外では既に識別番号のID管理が広く普及していますが、日本ではそもそも法律が制定されるまでマイクロチップの存在すら知らなかった人も多いです。そんな中で始まったこの法律、果たしてどういった効果をもたらすのでしょうか。

今回はマイクロチップの概要と、そのメリットについて解説していきます。

目次

マイクロチップとは?

日本でマイクロチップと聞くと、未だ「身体によく分からん物を入れさせるな」と批判されることがあります。こういった背景にはマイクロチップの認知度の低さが考えられます。正しい知識を身に着け、分からない物という認識を変えていきましょう。

ここではマイクロチップについて簡潔に解説します。

小さな電子標識器具

マイクロチップは別名【電子標識器具】とも呼ばれる極小の円筒形器具で、直径は約2mm、長さは約8〜12mm程度しかありません。あまりに小さくてイメージしにくいですが、分かりやすいものであれば、1円玉よりも一回り程度小さい程度ですね。名札……というよりは商品のバーコードやマイナンバーのような役割を持ちます。

内部はIC部とアンテナで構成されており、中には15桁からなる識別番号が記録されています。この識別番号は世界でそのペットのみが唯一保有することになる番号で、専用の読み取り機によって番号を読み込み、データベースに登録されている飼い主情報と照合させるために使用されます。

世界で唯一と聞くとなんだか疑ってしまいますが、15桁の数字の組み合わせは全部で900兆もあり、今後どれだけのペットが登録されたとしても何百年単位で無い限りは被ることはないでしょう。

マイクロチップの機能

マイクロチップはそれ単体ではただの番号が記録されているチップでしかありません。特定の機関のみが所有している読み取り機で識別番号を読み取ることで、初めて意味を持ちます。更にデータベースへのアクセスにはIDとパスワードが必要であり、まず一般人が勝手に飼い主情報を盗み見ることができません。

では特定の機関とは誰なのか。主に基礎自治体、都道府県、警察、動物病院、愛護センターの人たちです。更に現状では個人情報の保護観点から、迷子の犬や猫の飼い主特定の時のみデータベースへのアクセスが許可されています。

マイクロチップはただの番号であり、読み取り機はあくまでデータベースを閲覧するためだけ、いわば金庫の鍵やパスワードのようなものです。金庫の中身が空では意味がないように、データベースに飼い主の情報がなければ意味がありません。飼い主によるマイクロチップの装着は努力義務なのに対して、装着後の登録は義務なのはこのためです。

世界で活躍するマイクロチップ

日本は海外に比べ、ペットに関する防犯意識や法律が遅れているとされていますが、マイクロチップの導入の遅さもその一つだと言われています。日本ではようやくマイクロチップに関する法律が制定されましたが、実は世界全体で見れば既に色々なところで識別番号による管理が徹底されています。有名なところで言えば、アメリカの一部の州やスウェーデンでしょうか。

海外では「迷子になっていたペットが、自宅から数十キロ先で発見された」というニュースをよく聞きますが、あれは遠く離れてた場所で保護された時に識別番号から飼い主を特定できたためというケースがほとんど。

本来であれば飼い主不明の犬や猫で終わるところが、マイクロチップの存在によって飼い主と再会できたのです。日本では未だに怪しげなイメージが残っていますが、海外ではとっくに心強い存在として頼られていると言えるでしょう。

マイクロチップにはどんなメリットがあるのか

マイクロチップは世界でみれば当たり前の存在となりつつありますが、こと日本においては異物というイメージを払拭できていないのが現状です。そんな中、政府が急に装着の義務化を始め、そして案の定批判の声も出てきました。本当にマイクロチップは私たちにとって心強い味方になるのでしょうか。

ここではマイクロチップが普及するとどんなメリットがあるのかについて解説します。

マイクロチップ装着の義務化

日本では令和4年6月に事業者へのマイクロチップ装着の義務化、飼い主には【〇〇するよう務めること】を指す努力義務が決定しました。しかし、急な導入に対し、世間では批判の声も少なくありません。

そもそも日本は諸外国と比較しても、ペットのID管理が遅れていると言われています。その日本でいきなりIDの代表格とも言えるマイクロチップを碌な説明も無しに義務化させるわけですから、批判が多いのも無理ないでしょう。現に、義務化が始まる以前ではマイクロチップの普及率は絶望的なまでの低さでした。

迷子の防止やその先にある殺処分される犬や猫を減らす目的もあるマイクロチップも、日本においては【異物】として認識されているのです。たとえ周りの犬や猫への装着を是としていたとしても、実際に自分のペットに装着させるとなるとためらってしまう。

大切なペットだからこそ、いくら問題ないといわれても異物というイメージを払拭しきれない人たちが多いのです。

マイクロチップが普及するとどうなるのか?

マイクロチップがあればあんなことには……と筆者が思ったのはやはり東日本大震災のときです。人的被害はもちろん、ペットたちへの被害も甚大で、実に痛ましい災害でした。しかし、もしあの時マイクロチップの普及が出来ていれば、もっとスムーズにペットは飼い主との再会を果たせたのではないでしょうか。

震災で恐ろしいのは、迷子になる犬や猫の数です。飼い主でない人にとって、目の前にいる動物が誰のペットなのか分かりようがありませんし、人間の救助や避難も終わっていないのに所有者不明の動物まで手厚く保護できるほどの余裕はありません。名札を付けていたとしても、多くの場合は脱落して意味を成さないでしょう。

識別番号によるID管理は一見すると確かにマイナスイメージを持たれがちです。しかし、その実態はもしもの時に飼い主とペットを繋ぐ、唯一無二の絆となるでしょう。

マイクロチップで殺処分される数が減る?

マイクロチップの普及によるメリットはもう一つ、それは殺処分される犬や猫が減ること。日本では毎年3〜4万頭もの犬猫が殺処分されていますが、実はこのほとんどが飼い主を特定できない子たちです。捨てられたり、迷子のまま飼い主が見つからなかったり、そういった【所有者不明のペット】たちが殺処分されてしまいます。

国や保護団体がなるべくそういった所有者不明のペットを保護しようと尽力していますが、彼らだって万能ではありません。ペットを保護するにはスペースと費用がかかります。とてもすべての動物を保護することなんてできないでしょう。

ではどうすれば殺処分を無くせるのか。そう、そもそも迷子にならなければいいのです。マイクロチップが普及すれば、故意であれ事故であれ、ペットを【所有者不明のペット】にすることはできません。なにせ、見つかった瞬間に飼い主を特定できるのですから。

無論、法律も万能ではありません。装着を拒む悪徳業者や、海外では皮下からマイクロチップを摘出する悪質な事件もありました。そういったケースを無くすことも今後の課題ですが、それでも何もしないよりは遥かに効果的でしょう。

マイクロチップQ&A

マイクロチップはその利便性に反し、未だ普及率が高いとはいえません。その背景の多くは前項までで解説したとおりですが、中には「登録したいけどやり方が分からない」という人もいるでしょう。

ここではそのようなよくある疑問についてお答えしていきます。

マイクロチップの装着と登録方法

マイクロチップは動物病院の獣医師が専用の注射器にて皮下に埋め込みます。一度埋め込めば取り出すこともなく、定期的なメンテナンス等も必要ありません。費用は動物病院によって多少異なりますが、数千円〜1万円程度でしてくれます。装着後は獣医師からマイクロチップ装着証明書が発行されます。これは登録作業時に必要になってきますので、失くさないようにしましょう。

マイクロチップ装着後、30日以内の登録作業が義務付けられています。登録は下記URLのサイトで簡単にできますので、忘れずに登録してください。また、サイトでは登録作業の他にも、変更手続きや死亡手続き等も行えます。住所の変更や連絡先の変更もできますので、変更があった際は必ず手続きをしてください。

・動物の愛護及び管理に関する法律に基づく犬と猫のマイクロチップ情報登録
URL https://reg.mc.env.go.jp
コールセンター 03-6384-5320(受付時間:8時00分~20時00分 ※土日祝日可)

事業者以外から犬や猫を譲り受けた場合

友人や親族など、事業者以外の人から犬や猫を譲り受けた場合はマイクロチップが装着されていない可能性があります。装着の有無でその後の対応が変わってきますので、必ず確認してください。

もし装着されている場合は飼い主情報の変更作業をする必要があります。前項で紹介した登録サイトにて変更手続きを行ってください。装着されていない場合は、新しい飼い主自身で装着させるよう努めてください。あくまで努力義務ですので、しないからといって罰則が生じるものではありませんが、もしもの時に飼い主とペットを繋いでくれます。

マイクロチップ装着後の犬や猫が迷子になったとき

マイクロチップを装着している犬や猫が、窃盗や災害、迷子などの理由から飼い主と離れ離れになり、動物愛護センターや保健所に保護された場合は自治体から電話で連絡が来るようになっています。また、動物病院で保護された場合は日本獣医師会から同じく電話で連絡があります。

迅速な対応のため、ペットが居なくなった場合は公的機関からの連絡をすぐに受け取れる状態にしておきましょう。

マイクロチップは大切な絆になる

非災害時、迷子になった犬や猫のうち、身元が分からない中で飼い主が特定できたのは全体の3割程度と言われています。さらに東日本大震災の時はわずか0.3%しか飼い主と再会できなかったとも……。しかし、そんな悲惨な大震災時でも、奇跡的に身元がわかる物を所有していたペットはほぼすべて飼い主のもとに送り届けられています。

愛玩動物に対する意識や対策が遅れている日本、果たしてマイクロチップの普及はその認識を変えるキッカケになるのか。それは今後の飼い主の対応によって見えてくるでしょう。今回の記事がその一助になれれば幸いです。

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