犬が1年間で気をつけるべき病気について

犬は最も人間と一緒に暮らしてきた大切なパートナーであると言われています。しかし、いくら時間を共に過ごしてきたとはいえ、人間の言葉を話せるわけではありません。体調が悪くなっても、自分で飼い主に申告したり自分で病院に行ったりなどもできないのです。

だからこそ飼い主が愛犬の体調をしっかり管理してあげたり、不調をすぐに見抜くための知識が必要となります。この記事では犬がかかりやすい病気や疾患を、一年中、春、夏、秋、冬の5つに分けて紹介していきます。

目次

1年を通して気をつけるべき病気や疾患

1年中気をつけるべき病気や疾病は主にアレルギーや寄生虫などによって発症する皮膚関連のもの。これらは春夏秋冬関係なく発症する上、どんなに警戒していても発症することもあります。

犬の皮膚はとてもデリケートですので、日々の状態チェックは忘れないようにしましょう。

外耳炎

外耳炎(がいじえん)は犬が最もかかりやすい病気の1つで、季節に関わらず1年中気をつけなければいけません。『外耳』というのは耳の入口から鼓膜までの事を指し、そこがアレルギーや寄生虫などの影響により炎症を起こすことを外耳炎と言います。

外耳炎になると、耳が痛くなったり痒くなったりするため、耳を地面に擦りつける、耳をひっかくなどの行動を取るほか、細菌や膿が悪臭を放つようになります。また、外見上でも赤く腫れる、湿疹などの変化が起きます。

治療に関してですが、基本的には耳の洗浄及び投薬を定期的に行っていれば数週間で完治します。ただし、耳ダニ、異物などの基礎疾患がある場合はそれぞれにあった適切な処方が必要になる場合もあります。

厄介なのが再発を繰り返してしまっている場合。炎症を繰り返していると耳道と呼ばれる耳の中にある壁が段々と分厚くなり、鼓膜の前を塞いでしまい、耳が聞こえなくなったり、中耳円や内耳炎を併発する恐れがあります。この場合は、耳道を切除しなければいけません。

予防方法は、とにかく耳をキレイに保つこと。正しいやりかたで耳掃除をする、定期的に動物病院で耳チェックを行ってください。

皮膚炎

皮膚炎も外耳炎と同じくかかりやすい病気です。様々な種類があり、遺伝的な要因や犬種によるかかりやすさ、細菌や寄生虫などでも起こってしまいます。今回はその中でも最も多いとされる『膿皮症(のうひしょう)』について解説していきます。

膿皮症は、常に犬の皮膚に存在するブドウ球菌がなんらかの理由で異常に増えることで発症します。犬以外にも、人間や猫なんかにも膿皮症はありますが、犬の場合は表皮の層が薄く、皮膚pH(アルカリ性)の高さなどから特に発症しやすいです。

膿皮症を発症する原因は、主にホルモン異常やアレルギー疾患によるバリア機能の低下によるブドウ球菌の異常発生。症状はかゆみ、脱毛などに加えて、膿疱(のうほう)と呼ばれる皮膚の中に膿が溜まった水疱やフケ、円形脱毛もみられます。

治療方法は、シャンプーや抗菌作用のある外服薬、重症の場合は内服薬を投与します。

予防方法としては正しいシャンプーが大切。キレイにしようとシャンプーをやりすぎると、バリア機能に必要な皮脂まで流れ落ち、返って逆効果です。

春に気をつけるべき病気や疾患

春は冬との寒暖差によって人間も体調を崩しがち。人間と違って衣服で体感温度をコントロールできない犬となっては、特に気をつけなければいけませんよね。

また、春は予防接種等のワクチン接種の副作用、飼い主側の環境を一新したことによるストレスなど様々なことが要因で体調が悪くなってしまいます。なるべく愛犬の負担を考慮した生活を送りましょう。

犬フィラリア症

犬フィラリア症は犬に寄生する犬糸状虫が心臓や肺動脈に入り込むことで発症します。この犬糸状虫は蚊を媒介して犬に感染するのですが、蚊は春先に活発に活動しだすため、春先こそ注意する必要があります。

現在では死亡事例は少ないですが、昔の犬の寿命が短かったのはフィラリアと放し飼いが要因ではないかとすら言われるほど、本来は恐ろしい感染症なのです。また、感染事例にだけ絞ると決して少ないとはいえず、特に保護犬は高確率で犬フィラリア症に感染しているとの報告も見受けられます。

症状は主に血液循環障害によるもので、疲れやすくなったり、食欲が無くなったり、痩せてくるなどが症状として現れます。さらに重症になると、貧血や腹水、吐血などの症状がでる場合もあります。

治療法は主に成虫と幼虫で分けられ、成虫は外科で摘出、幼虫は薬で除去する方法が一般的です。ただし、一度強い陽性反応が出てしまえば、なんらかの後遺症もしくは肺や心臓に対する定期的な治療が必須になってきます。一度感染してしまった臓器は戻せないためです。

予防方法としては、投与期間中は毎月予防薬を飲ませてあげること。投与期間になる時期には獣医師による診察を受けること。この2点さえ守っていただければ、感染し重症化するリスクはほとんどありません。

熱中症

なんで春?と思われる方も少なくないでしょう。確かに一般的に熱中症は太陽が近く気温が高い夏に警戒するものですが、実は犬にとっては春も危険なんです。これは犬の特徴による『暑さへの弱さ』が関係しています。

まず、犬は汗をほとんどかきません。正確にいうと水状の汗を生成および分泌を行うエクリン汗腺が足の裏などのごく一部にしか存在せず、汗による体温調節が人間と比べて遥かに難しい生き物だということ。

次に、犬……というより小さなペット特有の問題ですが、地面と凄く近いこと。いくら春とはいえ、昼間のアスファルトは思ったよりも熱く、犬にとっては大変危険な環境です。特にダブルコートの犬はまだ換毛期を迎えていない仔も珍しくないため、余計に負担となることでしょう。

以上のことを踏まえ、飼い主様は夏と同じく熱中症への対策を怠らないよう注意してください。

熱中症の症状は人間とほぼ同じで、ぐったりしている、食欲がない、下痢、嘔吐、高熱など。重症になるとけいれん、意識消失など大変危険な状態になります。

また、犬にとって熱中症は一度発症すると早急に対応しなければあっという間に重症化し、最悪死に至るほど危険なものです。仮に重症から立ち直ったとしても、合併症やそれに伴う後遺症なども考えられるため、ほんの少しでも危険と判断したらすぐに病院へ行ってください。

予防方法としては、適切な室温を保つこと、水分補給を忘れないこと、車など密封された空間に放置しないことなどが挙げられます。

夏に気をつけるべき病気や疾患

夏は気温が高く、また梅雨などと重なることで湿度も高くなる季節です。犬自身の体調はもちろん、犬に与える食べ物が傷んでいないかにも注意しましょう。

夏は春にも挙げたフィラリア症や熱中症の危険もありますが、この項目では割愛させていただきます。これらについては先の『春に気をつけるべき病気や疾病』をご参照ください。特に熱中症は『春は意識されていないから危険』という意味で春項目に記載しましたが、本来最も危ない時期は夏ですので、必ず目を通してください。

食中毒

夏は高温多湿な環境になるため、人間も犬も食中毒の危険性が高まります。「犬はもともと自然の動物だし、食中毒になるの?」とたまに聞かれますが、野生の犬ならともかく人間に飼育されてきた犬は痛んだ食べ物に対する抵抗力は強くありません。

症状は人間と同じく、嘔吐や下痢などが見られます。

予防方法として、食物や飲料物の管理の徹底が挙げられます。ペットフードは菌が繁殖するためなるべく涼しく風通しの良いところに置いて、開封したものは早めに使い切ってしまいましょう。また、手作りご飯を食べさせている家庭はなるべく一食ごとに作り、生ものは控えて加熱調理をしてください。

また食物だけでなく水も定期的な取り換えを意識する必要があります。一度犬が口を付けると、よだれや毛が入り込んでしまい、そこから菌が繁殖してしまうからです。

因みに、水分量が多いウェットフードなどでも加熱処理はきちんと行われているため、適切に使用しているかぎり安全です。もちろん、高温多湿な環境に晒しているとカビが生えたりするため管理は徹底してください。また、ドライフードでも同様です。

秋に気をつけるべき病気や疾患

秋は暑い夏から寒い冬に移り変わる中間の季節ということもあり、人間でも体調を崩しやすい季節ですね。特に夏が他の所より暑い地域のお住まいの方は、温度差で余計寒く感じてしまうことでしょう。

もちろん、犬にとっても夏とのギャップで体調を崩しがちになります。また、ダブルコートの換毛期も犬によってはやや遅く入るため寒さに強い犬種でも油断できません。適切な運動と食事を心がけましょう。

尿石症

尿石症とは、尿が結晶化することで様々な症状を引き起こしてしまう病気です。そもそも尿は身体の老廃物を排出する目的があり、そのほとんどは水分で構成されていますが、中にはカルシウムやリンなどの固形成分も多少含まれています。その固形成分がなんらかの異常で溶け切らず結晶化してしまうのです。

尿石症になる要因は食事関連や水分不足、ストレスや体調不良などが挙げられます。特に、尿道が細いオスは尿石症にかかりやすいと言われています。夏からの気温の変化によって健康的な生活からかけ離れてしまうことがよくあるため、特に季節の変わり目には要注意です。

尿石症の症状としては細かい結晶の場合と、更に悪化して結石になった場合で異なります。

細かい結晶の場合は尿の流れで流れては行くものの、膀胱や尿道を傷つけてしまうため炎症を起こし、その結果として残尿感による頻尿や血尿になってしまいます。普段きちんとトイレで用を足す犬が粗相を繰り返し行うようでしたら警戒が必要になるでしょう。

結石になってしまった場合は更に深刻です。結晶は目に見えないレベルで小さな物体ですが、結石は見えるほど巨大化します。もし結石が尿道を塞いでしまうと尿が排出されなくなり、膀胱が破裂してしまったり腎機能障害を引き起こし、最悪命に関わります。

予防方法は適切な食事と十分な水分補給、尿を溜めすぎないようにすることです。また、結晶や尿石の成分によって必要な食事は異なります。主獣医とも相談しながら食事内容を決めていきましょう。

胃腸炎

胃腸炎は食べ物を消化するまでの過程で、なんらかのトラブルによって胃や腸が炎症を起こすことを指します。炎症を起こす原因は食べ物やストレス、急激な気温の変化による体調不良が多いです。食べ物では過食や拾い食いの他、人が食べるおやつなどの油分や塩分が多い物を誤って食べてしまうことが主な原因として報告されています。

症状としては下痢や嘔吐、食欲不振が挙げられます。基本的には吐き気止めや下痢止め等の処方箋などを服用しながら自然治癒によって数日以内に治ることが多く、下痢や嘔吐が激しい場合は水分不足を補うために点滴を受けることもあります。またその間は、消化の良いフードを少量複数に分けて食べさせるなど、日常生活にも配慮が必要です。

予防方法としては散歩に行くときは拾い食いしていないかを警戒し、嗜好性の高いおやつや人間のおやつを与えないようにすることが大切です。また気温の変化やストレスなどでも発症してしまうため、部屋の室温や犬との接し方にも気を配りましょう。

冬に気をつけるべき病気や疾患

冬は気温が寒く、空気中に含まれる水分も少ないため乾燥しやすい季節です。犬は元来寒さに強い犬種が多いといわれていますが、野生ではなく室内や人間のいる環境ではその限りではなく、逆に寒さに弱いとする医師も多いです。

犬は人間よりも遥かに地面と近い距離で過ごしており、お腹の毛も少ないため、むしろペット犬は他のペットよりも冷えやすいと言えるでしょう。その結果、寒さによる体調不良や乾燥による病気にもかかりやすくなっています。どの季節でも言えることではありますが、適切な運動や水分補給、健康的な食事はしっかり行いましょう。

骨関節疾患

冬は気温や気圧の変化によって、犬も人間も体が冷えがち。身体が冷えてしまうと血液の流れが悪くなり、身体は節々の痛みに敏感になってくるため、関節の痛みによる症状が起こりやすくなっています。

関節に痛みがあると散歩中に座り込んだり、足の痛みで歩かなくなったりするなど行動に変化がある他、痛みによるストレスによって攻撃的になってしまうことがあります。「普段は散歩大好きなのに…」「いつもは大人しいのに…」など、行動に違和感が見受けられるようなら関節疾患の可能性があります。

関節に痛みがあるまま放置してしまうと、最悪の場合変形性関節症や脱臼などを引き起こしてしまうこともあるため、すぐに診察しましょう。

予防方法としては、室内では適切な室温を維持する、床は滑り止めなどで転ばぬようにする、犬用のクッションなど犬が暖まれる場所を用意するなどが大切です。散歩や運動をする際は、軽い準備運動などで十分に筋肉をほぐしてから始めるようにします。

なにより、冬だからと運動を怠けぬよう健康的な生活を送ることが第一です。寒がりな仔や老犬も、その犬にあった内容で身体を動かせるように飼い主がサポートしましょう。

脱水症

冬の脱水症は人間でもよくあることですが、犬にも当てはまります。一見すると夏の方が脱水症に陥りやすいと思われがちですが、太陽に晒されて半ば強制的に発症してしまうこともある熱中症とは違い、「夏だから気をつけないと」と飼い主が水分補給を怠らないよう意識するため、むしろ夏こそ脱水症にならない犬も多いです。

対して冬は喉が乾きにくいこともあって水分摂取を怠りがちになります。しかし冬は乾燥によって体の水分が蒸発しやすいため、『身体は乾燥しているのに、喉の乾きを実感できない』という身体と意識のギャップで脱水症になりやすいのです。

脱水症はふらつきや失神を招く他、体を守る粘膜が乾燥し病原体への抵抗力が低下してしまい、その結果、風邪などの病気にかかりやすくなっています。また、重度の脱水症状はショック死を招くことすらある危険な状態です。

予防方法は、とにかく水分補給を欠かさないことです。とはいえ普通の水では犬は意識して飲むこともあまりしない場合もあるため、ウェットフードなど食べ物に水分を混ぜるなど工夫が必要になります。また、尿の回数や色、匂いにも警戒しましょう。明らかに尿の回数が少なかったり、普段とは違う色や匂いのきつい尿が出た場合は危険な状態です。

なによりも大切なのは健康的な毎日を送ること!

犬はとっても繊細ない動物です。些細なストレスや体調不良が重大な病気を招いてしまうことも珍しくありません。そして多くの場合、それを自分だけの力で完治させたりなどはできないのです。

飼い主様が心がけていただくことこそがなによりの予防に繋がります。再三申し上げますが、適切な食事と水分補給、運動など健全かつ健康的な生活こそがなによりも重要となります。その上で、日常生活の中で愛犬の行動に違和感があった場合は動物病院で診察したり、定期的な健康診断をかかさないようにしましょう。

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