猫エイズを発症するとどうなるのか?

人間でも時折ニュースとなる『エイズ』、実は猫にも似たような猫エイズが発見されています。発症すると致死率がほぼ100%と言われるほど恐ろしい感染症ですが、一方でちゃんと対策をしていれば発症する可能性をかなり低く抑えることも可能です。

今回は猫エイズや、そのウイルスであるFIVについて解説していきます。

目次

1猫エイズとは?

エイズと聞くと、どうしてもマイナスイメージが付きまといます。事実、発症してしまうと大変危険な状態になりますが、一方で猫エイズとFIVを混同する事による誤解も広がっています。

ここでは猫エイズについて、簡単に概要を解説します。

1.1致死率の高い感染症

猫エイズはFIV(猫免疫不全ウイルス)に感染する事で発症する、ウイルス性の感染症の事です。猫エイズはあくまで通称であり、正式名称を猫免疫不全ウイルス感染症と呼ばれています。よく間違われがちですが、FIVに感染した猫が猫エイズなのではなく、その状態で猫が免疫不全を起こした状態の事が猫エイズです。

これがどういう事なのかと言うと、【FIV感染=猫エイズではない】ということ。よく感染しても天寿を全うできたというお話を聞きますが、これはFIVに感染しているだけのケースですね。

猫エイズがいつ発症するのかは誰にも分からない上、発症するとほぼ100%死亡します。また、仮に発症しなくても、潜伏期間中は口内炎や風邪などあらゆる感染症になりやすい『病気がち』な状態となる事も分かっています。

このように、猫エイズは発症するとほぼ助からない上に、FIVに感染しただけでもその後の健康管理を徹底しなくてはならないとても危険な病気なのです。

1.2猫エイズの感染経路

猫エイズの主な感染経路は2つ、【他の猫から感染する】と【母体から感染する】です。他の猫といっても、感染力は強くないため空気感染や接触感染はせず、ケンカや交尾による体液(唾液、血液、精液など)を介して感染します。言い換えれば、完全室内飼いかつ感染の疑いがある猫と接触させない限り、感染することはありません。

もう一つが母体……つまり母親が感染症にかかっていた場合です。母子感染とも呼ぶこの場合は、胎盤を介して感染する場合と母乳を介して感染する場合の2通りが考えられます。こちらも、早期に去勢・避妊手術を行っていれば、そもそも妊娠する事がないため感染しません。また、そもそも今までの感染経路のほとんどが感染した猫とのケンカによるものであり、母子感染の事例は少ないと言われています。

1.3猫エイズの主な症状

猫エイズはFIVに感染したからといって発症するわけではなく、そこに至るまでにいくつか段階があります。感染〜発症までの期間も不明確で、個体によっては10年以上も発症しなかった事例も確認されています。ではここからは、各段階について詳しく見ていきましょう。

【急性期】

FIVに感染した当初の段階で、軽度の発熱や下痢、リンパ節の腫れが見られる段階です。症状が数週間から数ヶ月ほど続きますが、猫によってはほぼ無症状な場合もあります。

【無症候キャリア期】

急性期に見られた症状が治まり、目立った症状もなく健康体となんら変わりない段階です。この時期が感染〜発症の境目であり、多くの場合はこの段階で発症せずに天寿を全うします。

【PGL期】

リンパ節が腫れ、発症の前兆とも言える段階です。この段階は他の段階と違い、2〜4ヶ月ほどで次の段階に進むため、見逃しやすいとされています。

【ARC期】

FIVにより免疫機能が落ち始め、口内炎や鼻炎、結膜炎、皮膚炎などの病気にかかりやすい段階です。また、この状態を『エイズ関連症候群』とも言います。

【エイズ期】

猫エイズと言われる発症段階で、免疫機能が完全にダウンし、更に急激に痩せこけ貧血になります。悪性腫瘍を始め、日和見感染※1にもなりやすく、ほとんどの場合は数ヶ月で死亡します。

FIVは無症候キャリア期がどれほど続くかにかかっており、ストレスの度合いによって大きく左右されます。

※1 健康体では感染しないような、極めて弱い病原体で発症する感染症のこと

2FIVに感染しないためには

FIVは環境で長くは生きられないため、こと感染力という意味では大した脅威ではありません。野良猫など他の猫との接触が多い猫は例外ですが、家猫の場合は気をつけていれば感染することはほぼないでしょう。

ここではFIVに感染しないために気をつけるべきことについて解説します。

2.1室内飼いが望ましい

極端な話、FIVに感染していない状態で他の猫と接触しない限り、猫エイズの危険はありません。つまり、常に室内で飼育する事が最も単純かつ効果的な対策になります。

また、寄生虫や交通事故、他の感染症を予防すると言う意味でも、猫は室内飼いが推奨されています。平均寿命も室内飼いは室外飼いと比較して、明らかに長生きする事が分かっています。

2.2ワクチン接種

FIVにはワクチンがあり、一定の期間で数回接種することで予防効果が期待できます。ただし、現状のワクチンでは100%予防できるものではないため、あくまで脱走する可能性があったり、室内飼いが不可能な場合の緊急手段として用いた方が良いでしょう。

またFIVワクチンは混合ワクチンとは異なり、動物病院によっては取扱がない場合があります。接種したい場合は予め動物病院で取り扱っているか確認しておきましょう。

2.2感染の疑いがある場合の多頭飼いは要注意

かなり難しい問題ですが、FIVに感染した猫がいる時、多頭飼いは隔離させながら飼うことが推奨されています。1匹の猫が感染している場合、隔離していないと集団感染の可能性が高まるためです。

ただ、猫同士の関係性によっては隔離が難しい場合もあるでしょう。兄弟だったり家族であったり、又は単に物凄く仲が良かったり……。実際に猫を隔離しながら多頭飼いは現実的ではありません。飼い主にとっても、せっかく多頭飼いするなら皆仲良くが望ましいですよね。

もし多頭飼いかつ隔離が出来ない場合は、獣医師との相談の上でFIVワクチンを接種させたりなど、十分に感染防止策を行った方が良いです。他にも、食器やトイレを別々にしつつ、こまめにキレイにしておくことも大切です。

3猫エイズに関するよくある質問

猫エイズは人エイズとは、形が似ているだけの別種ですが、やはり飼い主を含めた人に感染しないか気になる人も多いです。

ここではそんな猫エイズに関する気になることについて解説します。

3.1猫エイズは人に感染するの?

猫エイズ……というよりFIVといった方が正確ですが、これはあくまで猫にのみ感染するウイルスであり、人には感染しません。また、猫同士でもケンカや交尾などで体液が体内に入らない限り、ほぼ感染しない事が分かっています。

3.2キャリア猫とは?

保護猫や野良猫などでしばしば見られるキャリア猫、これはFIVに感染した状態の事を指します。健康的にも問題なく、【猫エイズに発症するかもしれない猫】という認識で問題ありません。

3.3猫エイズでも長く生きられる?

猫エイズは致死率がほぼ100%であり、そういった意味では長くは生きられません。ただ、こういったお話の場合、ほとんどは猫エイズではなくFIVに感染した状態である【キャリア猫】の事を指すかと思います。

もしキャリア猫の事を指している場合は、天寿を全うする可能性は十分にあります。もし飼い猫がFIVに感染したとしても、決して悲観せずに、健康状態に気を使い、ストレスを与えない生活を意識しましょう。

4キャリア猫の現状と向き合い方

FIVは感染力こそ低いものの、猫同士のケンカや交尾では感染しやすく、確率は高くないもの母子感染も報告されています。そうなると肩身が狭いのはFIVに感染しただけの『キャリア猫』たちでしょう。現に、保護猫活動している方々もキャリア猫の子たちは里親も中々見つからないと苦心しているそう。

確かにキャリア猫は猫エイズを発症する可能性を抱えた猫ですが、きちんと非キャリア猫と区別して飼育してあげることで長生きできる猫でもあります。現代は猫エイズに関する研究も進んでおりますし、獣医師に気軽に質問できる環境も整ってきています。

キャリア猫を保護するかどうかは人それぞれではありますが、この記事で少しでもFIVや猫エイズに対して、今までと違う見方をしていたたければ幸いです。

天国への扉コラム